ここ10年くらい、大阪では外国人観光客の姿を見かけることが増えました。そしてそれに合わせるようにして交通機関の案内掲示、飲食店やドラッグストアの看板・POPなどで多国語表記をよく見るようになりました。
普段見慣れているはずの駅名が、中国語の表示で一部の漢字が特有の文字に置き換わっていると、少し面白い違和感を覚えたりします。街で見かけて中国語の文字に興味をもつようになったかたもいらっしゃるのではないでしょうか。ということで、今回は中国語の文字やフォントについてお話ししたいと思います。
私はずいぶん以前からぼちぼちと中国語を学習していましたが、Windows98やMacOS 9の時代は日本語OSで日本語・欧文(英・仏・独語など)以外の言語を表示・入力するための設定は少し面倒でした。フォントやIMEのインストールが別途必要で、また文字コードの違いで文字化けすることが頻繁にありました。
今では、WindowsもMacOSも世界共通のパッケージで販売され、標準で多数の言語を扱えるようになったことで、外国語学習者にとってたいへん便利になりました。かな漢字変換で普通に「深圳」、「九份」など有名な地名が出てきて、きちんと表示されると、隔世の感があります。ちなみに、Mac/iOSでは中国語<->英語の辞書が無償でついています。
文字コードはウェブでもメールでもUTF-8の使用が一般的になり、文字化けに遭遇することはめったになくなりました。そのためか、Google Chromeではついに文字コードを切り替える項目自体がなくなってしまいましたが、これはこれでちょっとやり過ぎ感があるような…。
ご存知のかたも多いと思いますが、中国語には簡体字(Simplified Chinese; SC)と繁体字(Traditional Chinese; TC)、2種類の文字体系があります。文字と言語を地域ごとにまとめると以下のようになります。(東南アジアでも中国語が公用語とされている国はありますが、ここでは省略します。)
地域 | 文字体系 | 話される言語 |
中国本土 (大陸) | 簡体字 | 北京語 (普通話) |
台湾 | 繁体字 | 北京語 (国語) |
香港 | 繁体字 | 広東語 |
簡体字は中国政府のもとで簡略化された文字です。繁体字は日本語の旧字体とほぼ同じですが、日本語にはない文字も含まれます。
言語はというと、台湾の標準語は中国本土と同じです(若干の語彙の違いはある)。一方、香港では広東語が話されています。広東語は北京語とは語彙、発音がかなり異なり、方言というより実質的に別の言語です。広東語には「冇」(=沒有)、「喺」(=在)(カッコ内は対応する北京語) など専用の文字も存在します。
ちなみに北京語という言い方は日本だけのようで、本土では普通話(あるいは漢語)、台湾では国語と呼ばれます。
中国語の文字と日本語の文字は字形もほぼ共通するものも多く、そのため中華圏に旅行した人は筆談でなんとかなったという話をよく聞きますね。ここでは、筆談で役に立つ(かもしれない)、字形が大きく異なる文字をいくつか挙げてみます。
まず、大胆に簡略化された簡体字といえば、「飞」(=飛)、「开」(=開) 、「广」 (=広) などが有名でしょうか。では、以下のものはどうでしょうか。いくつわかるかチャレンジしてみてください。
簡体字 | 繁体字 | 日本字 |
个 | 個 | 個 |
关 | 關 | 関 |
从 | 從 | 従 |
丰 | 豐 | 豊 |
厂 | 廠 | 廠 |
灵 | 靈 | 霊 |
众 | 眾 | 衆 |
最後の「众・眾」などは繁体字のほうも難しいですね。明治文学ファンなど旧字体に親しんでいる人なら余裕かもしれませんが。
WindowsでもMacでも標準でいくつかの中国語フォントが入っています。中国語フォントといっても、ひらがな、カタカナも文字セットに入っており、実はほぼ問題なく日本語の文章の表示に使うことができ(てしまい)ます。
上の画像はMacのFontbook.appでPingFang TC を表示させたものです。(漢字2行に続く記号のような文字3行は、注音符号とよばれる台湾でのみ使われている発音記号です。これは普通、縦書きします。)
このフォントで日本語の文章を表示させてみます (下の画像)。
何か違和感がありますね。ひらがなの字形(グリフ)がイマイチなのと、漢字の字形も微妙に見慣れたものと違います。また句読点は真ん中に来ています。そういえば中華圏に旅行したとき、中国語フォントでの日本語の掲示物もときどき見かけ、そこでも変な異国情緒を覚えました。
もう少し詳しくみていきましょう。下の3つの字はいずれもコードポイントは同一です (異体字ではありません)。
上段は「ヒラギノ角ゴPro」、下段は「Heiti (黑體)」です。拡大してみると違和感の原因がわかりますね。
国内の飲食店などでは、日本語フォントで無理やり中国語(繁体字)を表示した印刷物をよく見かけますが、おそらく訪日観光客は、私と同様の(逆の?)違和感をもっていることでしょう。やはり、多言語の印刷物では、言語に合わせてフォントを使いわけるのがスマートだと思います。
最後に、中国語フォントの一覧をあげておきます。
(このほかにも多数インストールされています。)
いかがでしたでしょうか。この記事で中国語フォントに少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいです。多謝。